水戸地方裁判所 昭和27年(行)30号 判決
原告 市村春吉 外三名
被告 大国村長
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
第一当事者の申立
一、請求の趣旨
被告が昭和二十六年四月二十二日大塚藤二郎を茨城県真壁郡大国村助役に選任した処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。
二、答弁の趣旨
原告の請求を棄却する。
第二当事者の主張
一、請求原因
(一) 被告村長は昭和二十六年三月三十一日開催の茨城県真壁郡大国村議会に議案第六号として地方自治法第百六十二条により大塚藤二郎を同村助役に選任するについて同議会の同意を求める旨の「大国村助役選任の件」を提出しその同意を得て同年四月二十二日附をもつて訴外大塚藤二郎を同村助役に選任した。
(二) しかしながら被告の右選任行為は次の理由により無効である。
(1) そもそも村長のなす助役の選任は勿論のことこれに対する村議会の同意も前任助役の任期満了後になされることを要する。ところが前任者である訴外大塚藤二郎は昭和二十二年四月二十二日被告村長によつて選任せられ、同年五月一日これを承諾して助役に就職したのであるから、その任期は昭和二十六年四月三十日満了することになる。だから同年四月二十二日なされた本件助役の選任は当然無効である。又同年三月三十一日なされた村議会の同意は無効であり、この点からしても右助役の選任は無効である。
(2) 仮に任期満了前の同意が有効であるとしても、右同意は村議会議員の錯誤にもとずくものである。即ち前記昭和二十六年三月三十一日の村議会において被告村長は提案に際し「前任者の任期は既に満了したから後任者の選任につき同意を求める。」旨虚構の事実を前提とする提案理由を説明したゝめ、議員はいずれも右を真実であると誤信しこれに同意したのである。従つて右の同意は錯誤による無効のものであり、被告のなした助役選任もまた無効に帰する。
(3) 仮に右の主張が理由なしとするも、助役の選任に関する村議会の同意は前任助役の任期満了に接着する村議会においてなさるべきものである。殊にその任期満了前に、村議会議員の改選が行われたような場合には旧議員によつて構成される村議会でなされた同意を有効とするときは、新議員の右同意についての議決権は奪われるという不当な結果を生ずるであろう。ところが被告村長は前任者の任期満了前たる同年四月二十三日に村議会議員の改選が行われることを見越して、殊更に改選前の議員の構成する村議会に同意を求めたのであつてこのような場合においては右同意は無効であり、右同意を前提としてなされた被告村長の助役選任も無効といわなければならない。
(三) ところで原告等四名はいずれも昭和二十六年四月二十三日施行の大国村議会議員選挙により議員に当選したものであり、前記のように前任助役の任期満了前の村議会を構成する議員として助役選任に対する同意についての議決権を有するものであるが被告村長の前記違法な選任により右議決権を奪われることになるから、こゝに右選任行為の無効確認を求めたものである。
二、答弁
(一) 請求原因(一)の事実は認める。
(二) 同(二)の事実のうち
(1)の点については、前任助役大塚藤二郎は昭和二十二年四月二十二日選任せられたことは原告主張の通りであるが、大塚は同日これを承諾して助役に就任したのであるからその任期は昭和二十六年四月二十一日満了したわけである。そして新助役の選任が前任助役の任期満了前になさるべきでないことは勿論であり、本件においても大塚助役の選任はその前任期間満了後になされたのである。けれども助役の選任に対する村議会の同意は前任者の任期満了後になされなければならないという規定は存しない。通常助役の選任についての同意は助役の欠員により自治体運営に支障を来たすようなことを避けるため、前任者の任期満了前になされる実情にある。本件の場合も右の例に従つたまでゝある。
(2)の点については、被告村長は原告主張の助役の選任について同意を求めた村議会においては、前記のように昭和二十六年四月二十一日前任者の任期が満了する旨詳細に説明した上同意を求めたのであるから、出席議員に錯誤のある筈なく、仮に議員が錯誤により同意の議決をしたとしてもそれは同人等の責に帰せられるべきであるばかりでなく、そもそも右のような錯誤にもとずいたからといつて同意の議決が当然に無効になるというようなことはない。
(3)の点については被告村長が助役の選任につき同意を求めた議会は前任者の任期満了に接着した議会である。仮にそうでないとしても、任期満了前僅か二十日位のうちに開催された議会において同意を得たのである。このように自治体の運営上常識的に見て適当な時期に同意を得たような場合はこれをもつて直ちに無効とすることは当を得ない。
第三証拠方法<省略>
三、理 由
被告村長は昭和二十六年三月三十一日開催の茨城県真壁郡大国村議会において、訴外大塚藤二郎を同村助役に選任するについて、その同意を得た上、同年四月二十二日同人を大国村助役に選任したことについては当事者間に争がない。
そこで右選任についての同意の議決に原告の主張するような無効原因が存するかどうかについて検討する。原告は先ず右の選任は大国村の現任助役訴外大塚藤二郎の任期満了前になされたものであつて無効であると主張するのでこの点につき審究すると、成立について争のない甲第一号証(但し後掲記載部分を除く)証人大塚藤二郎の証言、被告大国村長猪野雪之助の本人尋問の結果を綜合すると、大塚藤二郎は昭和二十二年四月二十二日大国村助役に選任せられ、同日就任を承諾して助役に就任したことが認められる。従つて同人の助役の任期(四年)は昭和二十六年四月二十一日の経過とともに満了することとなるわけである。尤も前記甲第一号証の奥書後段には「同年五月壱日より就職」と記載されているけれども、前記証人の証言及び被告村長猪野雪之助の本人尋問の結果を綜合すると、右書面を記載した大国村役場の庶務係吏員が、右大塚は助役として昭和二十二年五月一日から役場に出勤し執務した趣旨において前記のように記載し同村長の職印を押捺して発行したのであることが窺われるから前記認定と牴触するものではなくその他同認定を覆えすに足る資料も存しない。そうすると右助役の選任は前任期間の満了後においてなされていることになり、原告の前記主張は採用の限りでない。次に原告は助役の選任に関する村議会の同意は前任者の任期満了後においてなされなければならず、少くとも任期満了に接着した議会においてなされることを要する旨主張するが、このような立論は何等法文上の根拠があるわけではないのであつて、凡そ村助役の選任につき村議会の同意を受くべき時期の選定換言すれば村長は何時開催さるべき定時会に附議すべきか。又特に臨時会を招集して附議すべきかは村長が村政の運営にかんがみその自由裁量によつて決すべきことがらであり、特に著しく社会通念に反する時期に附議したというような場合を除いては村議会の同意は違法とならないものと解すべきである。ところで本件について見ると、被告村長は現任助役の任期満了の約二十日前に招集せられた村議会に附議したことは前認定事実に徴し明らかであるが、当時現任助役大塚は大国村立新制中学校校舎建設の会計事務に精通していた関係もあり、同人が助役の職を離れることはそれが一時的のものであるにせよ同事務処理上円滑を欠くと考えあらかじめ村議会の同意を得ておくため右の挙に出たのであつて、何等他意のないことは前記証人の証言並びに被告村長猪野雪之助の供述に徴し明白であつて任期満了の二十日位前に右の同意を得たことを目して甚しく不相当な処置ともいゝがたく、前記村議会の同意はこの点について原告の主張するような違法は存しないものといわなければならない。なお原告は前任助役の任期満了前に村議会議員の改選の行われる場合には、旧議員で構成する議会の同意を有効とするときは新議員の有する右同意についての議決権が侵害されるというけれども、仮にそのような議決権たるものを認めるとしても、前記のように村議会の改選は大塚助役の前任期間の満了後のことであるから、この点についての原告の主張も採用のかぎりでない。
最後に、前記昭和二十六年三月三十一日開催の村議会における同意の議決は、右会議に出席した議員が現任助役の任期満了の時期に関し錯誤におちいつた結果なされたものである旨主張するが、右事実を認めるに足る資料は存しない。
以上のように本件大国村議会の助役選任に関する同意及び被告村長の助役選任については原告主張のような違法は存しないのであるからこれが無効確認を求める原告の請求は理由がなく棄却を免れない。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 多田貞治 森松万英 石崎政男)